良い練習メニューを見分ける簡単な2つのポイント
どんな練習をすれば、サッカーが上手くなるのか。次はどういう練習をすればいいのか。
仕事(本業)中も頭を悩ます指導者も多いはず。
書籍で勉強したり、ネットで検索したり、高いDVDを買ったり、有給を使ってセミナーやクリニックに参加したり。皆さん、本当に努力されてますよね?
今回は具体的な練習メニューではなく、紹介された練習メニューが、良い練習メニューかどうか、即座に判断するポイントを紹介します。
サッカー経験のないお父さんお母さんでも、お子さんの練習を眺めながら、良い練習かどうか、見分けられるようになります。
「何だ。そんなことか」と聞いてがっかりされるかもしれないのですが、ポイントは、
「リアリティ」と「1人当たりのボールタッチ数」です。
1.リアリティ
練習にリアリティがあるかどうか?リアリティのある練習とは、ズバリ「試合」です。試合のために練習しているわけですから、当然といえば当然。
11人制なら、11人制の、8人制なら8人制の試合が最もリアリティのある練習となります。
反対にリアリティのない練習とは、選手が「サッカーしてる感」がない練習です。
例えばこの練習は、リアリティのない練習の代表例です。
少し難しくしても、「リアリティのなさ」という点では変わりません。
こうした練習が「悪い練習」だと主張するつもりはありません。ただ、選手にとって、リアリティ(サッカーしてる感)はありません。
2.1人当たりのボールタッチ数
1人当たりのボールタッチ数(反復回数)が十分多いか?
一方、リアリティのある11対11、8対8の試合の大きな欠点は、1人当たりのボールタッチ数が少なすぎるということです。
人数が多ければ多いほど、1人当たりのタッチ数が減ってしまいます。
リアリティがあっても、ボールに触る回数が少なすぎては「練習」にならないのです。
そのため、「試合」の人数を減らして、1人当たりのボールタッチ数を確保し、なおかつ、「試合」のリアリティを損なわない最適なバランスを求めなければいけません。
ただ、ヨーロッパ各国での長年の経験と研究から答えはハッキリでておりまして、最適なバランスが保たれるのは、4対4のミニゲームです。
(参照:4対4のミニゲームはサッカーそのもの)
下図は、自称「サッカーの良い練習判別チャート」です。
ボールタッチ数とリアリティを軸に練習を区分けしてみてください。右上に位置するほど、「良い練習」となります。
練習メニューを検討する際には、その練習が少しでも右上に位置するよう、工夫してください。
反対の左下(リアリティがなく、ボールタッチ数が少ない)は、サッカー選手であれば、「やりたくない練習」になります。ここに区分けされる練習を行うには、相当な理由がなければ時間の無駄になってしまうでしょう。また、選手も白けてしまうでしょう。
もう少し掘り下げてみましょう。
人数の違いによるボールタッチ数の比較
FAとFIFAが行ったU12年代のボールタッチ数の調査(Academic research carried out by FA and FIFA research department)によれば、
1分間のボールタッチ数は、
- 11対11は0.6回
- 5対5は2.73回
同じゲーム形式の練習ですが、ボールタッチ数に4.5倍の差があります。
また、別の調査(Small-Sided Games Study of young Football Player inScotland.university of Abertay Sundee;Independent Consultant Paper)では、
- 4対4は11対11の3.9倍
- 7対7の約2倍
のボールタッチ数があると報告されています。
このように、4,5人のミニゲームと11人制、7人制ではボールタッチ数に大きな差があります。
しかし、実際の練習ではもっと差が出るはずです。
少し極端ですが、実際にありそうな例でみてみましょう。
幸いにも11人制の試合ができるグランドで、30人が参加する練習の場合です。
練習時間の90分を全てゲーム形式で行ったと仮定します。
【11対11の場合】
22人がゲームに参加。(残り8人は見学またはピッチの周りを走ります)
これを平等に行うと、1人当たりの出場時間は66分になります。
11人制の1分間のボールタッチ数は0.6回なので、
1人当たりのボールタッチ数は39.6回(66分*0.6回)です。
(ある選手は90分の練習時間のうち、66分出場して40回ボールに触り、24分は休んだことになります)
【5対5の場合】
11人制のピッチを3分割し、5対5のゲームを3か所で行います。
30人が休みなしで、同時にプレーできます。
5人制の1分間のボールタッチ数は2.73回なので
1人当たりのボールタッチ数は245回(90分*2.73回)です。
(ある選手は90分の練習時間のうち、90分出場して245回ボールに触ったことになります)
40回と245回。ボールタッチ数の差が6倍になります。
もちろん、週末の試合に向けて、11人制(8人制)のシステムやポジションの確認を行う必要はありますが、一方でこれだけのボールタッチ数を犠牲にしていることも、覚えておかなければいけないでしょう。
特に、ボールに触れば触るほど上達する育成年代では、リアリティのあるボールタッチ数を最大にする工夫が、コーチの手腕ともいえます。
補足説明
「コーンドリブルは悪い練習ですか?」と質問をいただきましたので、補足させていただきます。
- 反復回数が多くて、リアリティがないコーンドリブル
- リアリティがあって、反復回数がない11対11のゲーム
これらの練習が「悪い練習」と考えている訳ではありません。
(反復回数が少なく、リアリティのない練習は悪いと思います)
ただ、上で説明しましたように、バランスが悪いことはお分かりいただけたと思います。
選手の能力、チーム事情などを考慮して、バランスが悪いことを承知しつつ、行うのであれば問題ないと思います。
是非お試しいただきたいのですが、ドリブルの練習をここで紹介する2対2のラインゴールに代えてみてはいかがでしょうか?
2対2はコーンドリブルよりドリブルの反復回数は減りますが、リアリティは大幅に増して、楽しめると思います。
追記(2016.8)
日本でバルサキャンプなどを主催するAmaizing Sports Lab Japanの浜田氏が「世界で通じる子供の育て方」の中で紹介されてます。
バルサから派遣されているテクニカルディレクターが「日本の子供たちを指導して最も苦労することは何ですか?」と質問されて「ボールが外に出た時に、自分で取りに行かなくてもいいと理解してもうこと」と答えたそうです。
技術的に未熟なうちは、3v1や4v2のような難易度の低いロンドでも、頻繁にミスが発生し、ボールがグリッドの外に出てしまいます。
その都度ミスした選手たちがボールを取りにいってしまうと、そのグループ全体が止まってしまいます。この球拾いの時間がもったいなく、練習の雰囲気にも悪い影響を与えてしまいます。
仮にプレイが再開するまで5秒で済んだとしても、3v1のロンドであれば、5秒で7~8回のパスがつながるはずです。
わずか5秒ですが、10分間のうち何秒無駄になるでしょうか?何回のパスが失わるでしょうか?
コーチがボール配給役(=球拾い)
ボールが外に出たら、コーチが新しいボールをすぐに配給しリスタートします。
コーチ一人で3つ以上のグリッドを担当するような場合、グリッドの周りに予備のボールを準備しておき、外に出た場合は新しいボールでリスタート。コーチは外に出たボールを回収して予備ボールとします。
ミニゲームを行う場合も同様。ゴール後ろとピッチの周りに予備ボールを準備しておきましょう。
このように、コーチがボールの配給に気を配る練習と、そうではない練習では、一人当たりのボールタッチ数に大きな差が出てしまうでしょう。