日本人は守り方を知らない? 指導者は「サッカーの言語化」を武器に!
ある高校の試合。
監督「そこ、行けよー!」
(監督は相手のビルドアップに対するディフェンスをしろとFWの選手に怒鳴ってます)
前に出て相手に寄せるFW。
しかし、1対3の数的不利の状況で、簡単につながれてしまいます。しかも、自分が開けた穴を有効に使われて!
選手「これ、無理でしょ」と監督にも聞こえるようにアピール。
この状況でプレスに行って、奪えるわけないでしょと不貞腐れて完全に足を止めてしまいました。
このシーンで監督とFWに信頼関係がないことがハッキリわかりました。
この選手はキャプテンマークを付けていたので、恐らくチーム全体の雰囲気も良くないはず。
しかし、この監督がシーズン始まる前から、ずっとこのように言い続けていたとしたらどうでしょうか?
サッカーの言語化とは
「相手陣内でのビルドアップの場面で、FWの仕事は、ボールを奪うことじゃない。無理に奪いに行ってはいけない。
サイドバックにボールを持たせて、中へのパスコースを切るだけでいい。」
「中盤の選手はパスコースを切りながら、ボールを中心に囲むようなポジションを取って。このゾーンからボールを出させない感じね。」
「この状況ができれば相手はロングボールを入れる可能性が高くなるから、ディフェンスは準備して。」
「ラインを揃えて。下げすぎないように。」「ボーっとしてるFWがいたらオフサイドにしろ」
「ロングボールが出たら、中盤はすぐ戻って相手を挟むぞ」
もし監督がこのようにサッカーを言語化していたとしたら、同じ場面で「そこ行けよ!-」と言われたFWは「ヤベッ。俺の仕事だった」と慌てて動き出すでしょう。もちろんボールを奪うのではなく、SBから中へのパスコースを切りに。
たとえ監督が嫌いだったとしても、この場面で自分の役割が言語化されているので、動かざるを得ません。自分の仕事をしないと、自分がチームメートに嫌われてしまいますから。
現役時代、国体レベルだった監督が日本代表レベルの選手を指導するには
このように、現代サッカーのセオリー、あるいはチームのコンセプトを「言語化」することで、指導者はしっかりモノが言えるようになります。たとえ自分の現役時代よりはるかに上手な選手に対しても。
「その程度の話なら、どこの高校でも指示がでてるよ」
そう思われましたか?
では、レベルをずーっと上げて、Jリーグのビッククラブの対戦はどうでしょうか?
2016年1月1日の天皇杯決勝、浦和レッズvsガンバ大阪戦で見てみましょう。
炎上必死? 浦和レッズ、ガンバ大阪へのダメ出し
「守り方を知らない日本人 日本サッカーを世界トップへ導く守備のセオリー」という本の中でイタリア人指導者はこの試合をこのように評してます。
「ゾーンディフェンスの基本」は、少なくとも浦和レッズvsガンバ大阪ではまったくと言っていいほど実践されていません。
とくに浦和レッズ、その守備から攻撃、そして攻撃から守備へ移行する際の手法には、我々の理解が遠く及ばない域にある・・・
・・・とりわけ最終ラインからの組立に関しては、およそプロの試合とは思えないと言うより他ない場面が連続していました。
この後も時間を止めて、詳細なダメ出しが続きます。
- 前半●分●秒、この選手のポジションが違う、
- 前半●●分●●秒、この選手は何でそこへ動くのか理解できない。
- 後半●分●●秒、絶対にスライディングしてはいけない場面だ
- 後半●●分●秒、私が指導するユースチームでもこのようなミスはしない
といった感じです。
(サポーターの皆さん、このブログを炎上させないでください。本の引用ですから。)
イタリア人だからと言って、伝統の「カテナチオ」について語っているわけではありません。
現代サッカーにおける、「ディフェンスの基本」についてのダメ出しです。日本のトップチームに対して!
日本人指導者なら絶対に言えない?日本代表へのダメ出し
日本代表戦でも全く遠慮がありません。
ブラジルW杯、日本vsコロンビア戦。
15頁を使った詳細な分析で、日本代表選手に対して非常に厳しい言葉のオンパレード。
最後にこのように結論づけてます。
代表のディフェンダーがこのレベルでは、やはりこう問わねばならないでしょう。 一体どのような指導が育成年代で行われているのか?小さくない疑問を抱かずにはいられません。『1対1』はもちろん、最も重要である『2対2』の守り方、ここを徹底的に改めるべきではないでしょうか。
逆にいえば、そこが徹底的に強化されれば、日本代表はより勝てるチームになるはずです。
ブラジルW杯は、イタリア人の監督でしたよね?
彼は何を見て、どう思っていたのでしょうか??
ちなみに、同試合での『1対1』『2対2』の守備の対応に問題のある場面は、同書掲載以外にも多数あり、紙幅の都合で割愛されたそうです。
そして、ドイツvsアルゼンチン、イングランドvsイタリアの試合では、同じような初歩的な個人戦術のミスは皆無だったとのことです。
そこまで違うのかよ!って感じなのですが、同書は決して日本をけなすことが目的ではないと思われます。
攻撃に関してのクオリティは高く、「守備さえ改善できれば日本のサッカーは飛躍的に強くなる」という前提での批評が400頁に渡って繰り広げられてます。
具体的に日本代表へのダメ出しを見てみましょう。図は分かりやすいように加工しました。
日本代表vsオーストラリア代表(2014年11月18日)
2分15秒
MF遠藤が出てはならない場面で前へ出て行き中盤に穴を開けています。ここでマークに行くべきはMF遠藤ではなく、左のFW武藤です。
2分16秒
長谷部が左サイドに引っ張られ、中盤中央を大きく開けています。
一方で、そのMF2枚が空けた穴を埋める動きはMF香川にも、FW本田にも一切ありません。
これだけ中盤の中央を大きく空けるのはなぜなのか。(中略)
この場面におけるミスの数々も、その全てが"個人戦術"の誤りです。
特に本田選手に対しては、数メートル戻らない(絞らない)場面を何回も指摘し、「早く代表から外すべき」と厳しいです。
「エスキモー」は「雪」を50種類以上に分けるそうですね。
日本人には見えない違いを見分けているのでしょう。
同じことが、欧州主要国と日本の「守備戦術」の違いについても言えそうです。
同書で学んで著者と同じものが見えるようになれば、遠藤、本田、香川といったスター選手にも、堂々とダメ出しできる指導者になれるかもしれませんね。
代表戦の他、Jリーグの試合、年代別の代表戦など事例満載。読むのは苦痛ですが、この夏休みにおすすめの一冊です。(2014年からフットボール批評の連載に加筆・修正されたものです)
長々と引用させていただきました。
万が一出版社の方がご覧になってたら、、、すみません。