SAQトレーニングとは?あらゆる競技に共通する体を動かす土台作り
そんなに難しいことを言っているわけではないのに、
いくら教えてもなかなか習得してくれない。頭では理解していても体がその通り動いていない。
最近の子供たちは、そんな傾向ないですか?
その原因は、練習量不足でもやる気の問題でもなく、「体を動かす土台」がないことにあります。
一昔前の子供たちは、鬼ごっこ、缶蹴り、小川での魚獲り、森や山での昆虫採集などの外遊びの中で、俊敏さ、バランス能力、柔軟性などが自然に培われていました。
しかし、現代の子供たちは、ライフスタイルの変化に伴い、外で遊ぶ機会が減少し、家の中でゲームをする時間が増え、体力が低下してしまっています。
そのため、いざスポーツをやることになっても、体を動かす土台がないので、指導者が高度な技術・動作をいくら教えてもできないことが多いのです。
そこで登場したのが、「SAQトレーニング」です。
SAQトレーニングを行うことで、昔は遊びの中で培われていた、体を動かす土台を身につけることができます。
今回は、SAQトレーニングとはどういうものなのかという概論的なことから、実際のトレーニングメニューまで詳しくご紹介していますので、是非ご覧ください。
1 SAQトレーニングとは「スピードを高めるトレーニング」
SAQトレーニングを一言で表現すると、「スピードを高めるトレーニング」です。SAQとは、スピード(Speed)、アジリティ(Agility)、クイックネス(Quickness)の頭文字からきています。スポーツにおけるスピードをこれらの3つの要素に分類し、トレーニングを行うことから、この名称が使われるようになりました。
1-1 Speed(スピード)とは重心移動の速さ
SAQの「S」、Speed(スピード)とは、「重心移動の速さ」のことを指します。前方向だけでなく、横や斜めなどすべての方向への重心移動が該当します。代表的なものに、陸上競技の100mがありますが、他にもサッカーやラグビー、アメリカンフットボールなどでも直線的なスピードが要求されるシーンが多くあります。
1-2 Agility(アジリティ)とは運動時に身体をコントロールする能力
SAQの「A」、Agility(アジリティ)とは、運動時に身体をコントロールする能力のことを指します。素早い方向転換や切り返しが多いサッカー、バレーボール、バスケットボール、テニス、格闘技などのスポーツに必要な能力です。
1-3 Quickness(クイックネス)とは刺激に反応し速く動く能力
SAQの「Q」、Quickness(クイックネス)とは、静止状態においてや動いている最中において、刺激に反応して速く動く能力を指します。動き出す瞬間の判断やそこから数歩の動き(無駄なく、スムーズな加速)などがクイックネスの要素となります。野球の盗塁のスタートなどは静止状態からの一定方向への反応ですが、サッカーやバスケットボール、アメリカンフットボールなどの場合は静止状態から360度あらゆる方向への反応が必要になります。
2 SAQトレーニングを行う目的は「神経系の活性化」と「身体の正しい使い方」
SAQトレーニングを行う目的は、大きく分けると「神経系の活性化」と「身体の正しい使い方」の2つが挙げられます。
2-1 神経系の活性化
神経系の活性化とは、より高速の動作を獲得することが狙いです。神経を活性化させるためには、抵抗や補助、視覚・聴覚を通じた刺激をトレーニング中に与えることが必要です。分かりにくいと思うので簡単な例でご説明すると、右手と左手でじゃんけんをして、必ず右手が勝つようにします。最初は少し難しいかもしれませんが、慣れればスムーズにできるようになると思います。
今度は、同じようにじゃんけんをするのですが、手を出す直前、「じゃん、けん、」のタイミングでパートナーに「右!」、「左!」と指示してもらい、指示された方の手が勝つようにしてみてください。いかがでしょうか?かなり難易度が上がったと思います。このようなことをトレーニング中に行うことで、神経が活性化していきます。
2-2 身体の正しい使い方
従来のSAQでは、神経系の活性化がメインに捉えられがちでしたが、近年では、バイオメカニクスという研究分野が確立されているほど、最も効率のよい身体の使い方つまりは身体の正しい使い方が重要視されています。プロのスポーツ選手でも、些細なことで動きが崩れてしまうことがありますが、この身体の正しい使い方を身につけておくことで、動きが崩れそうになった時に修正することができるので、大きな崩れの防止に役立ちます。
2-3 最終目的は「正しく速く動くこと」
SAQトレーニングの最終目的は「正しく速く動くこと」にあります。そのため実際のトレーニングの多くは、Speed、Agility、Quickness単独というよりも、3つが入り交じったものになります。トレーニングを行う中で、S・A・Qのどれに意識を置くかによって効果が違ってきます。
3 器具別SAQトレーニングメニュー
SAQトレーニングのメニューを器具別に紹介します。SAQトレーニングは正確な動きを速く行うことが非常に重要です。器具を使用しなければ、正確な動きができているかどうかを確かめることができません。SAQトレーニングを行う際は、トレーニングに適した器具を使用するようにしてください。
3-1 ラダー
ラダーは、梯子のようなマス目をステップしたり、ジャンプしたりするトレーニングに使用する器具です。サッカーや野球のウォーミングアップによく使われています。ここではラダートレーニングの基本的なステップをご紹介します。
①クイックラン
- 1マスに1歩ずつ足を入れ、できるだけ速く走ります
- 膝は高く上げるのではなく、速く動かすことを意識します
②ケンパ
- 1マス目は片足でマスの中にジャンプします(ケン)
- 2マス目は両足を開いてマスの外に着地します(パ)
- 片足のジャンプは、左右交互に行い、マスの真ん中に着地することを意識します
③1イン2アウト(イン・アウト・アウト・イン)
- 横向きになり、ラダーの外側に立ちます
- マスの中に1歩、外で2歩、中に1歩ステップします
- 上半身がブレないように、しっかりと腕を振ります
- 前後の重心の移動を意識してください
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3-2 ミニハードル
ミニハードルは、名前の通り陸上競技のハードルを小さくしたトレーニング器具です。ミニハードルを使うことによって、トレーニング動作に「高さ」の要素を加えることができます。ここではミニハードルを使用したトレーニング方法をご紹介します。
①ラテラル・ハイニー
- 身体を横向きにし、ももを高く上げて1歩ずつハードルをまたぎます
- 腕と足を連動させ、できるだけ速く動かすように意識します
- 反対向きでも同様に行います
②スリーステップ・ハイニー
- 身体を前向きにし、ももを高く上げてハードルをまたぎます
- ハードルとハードルの間で3歩足踏みを入れます
- 一定のリズムでまたいでいけるようにしましょう
③両足ジャンプ(途中横)
- 身体を前向きにし、両足をそろえてハードルを跳んでいきます
- 途中、左右に90度回転させたハードルを置いておきます
- その場所にきたら横跳びを1回入れてから再び前に跳んでいきます
3-3 リアクションボール(クレイジーボール)
リアクションボール(クレイジーボール)は、ボールといっても球体ではなく、表面がデコボコしたゴム製のボールです。デコボコしているので不規則にバウンドします。その不規則なボールの動きを追いかけることで、動体視力や反射神経を養われます。ここでは、このボールを使ったSAQトレーニングのメニューをご紹介します。
①ワンバウンドキャッチ
- 2人1組で、ボールを投げる方は相手の前でバウンドするようにボールを軽く投げます
- ボールを受ける方はワンバウンド後にボールの動きを見極めて素早くキャッチします
- 投げる方と受ける方を交代して繰り返します
- キャッチすることよりも、正確に身体を動かして反応することを意識しましょう
- 動画のようにボールを2個使用して2人同時に投げるとより効果的です
②バウンドキャッチ(セルフ)
- ワンバウンドキャッチを1人で行う方法です
- 壁に向かってボールを投げます
- 跳ね返ったボールをワンバンド後に動きを見極めて素早くキャッチします
- キャッチすることよりも、正確に身体を動かして反応することを意識しましょう
3-4 ボディバランスドーム
ボディバランスドームは、バランスボールを半分に切ったような形をしたトレーニング器具です。バランスドームを使用することによって、身体の様々な筋肉を協調させながら使う能力や不安定な状態に対するバランス維持能力などを鍛えることができます。トレーニング方法をご紹介します。
①片膝あげ
- バランスドームを身体の前に置きます
- 片足で1歩踏み込んでバランスドームの中央に足を着きます
- バランスをとりながらもう片方の足の膝を腰の位置まで持ち上げます
- 左右交互に行います
②片足ダイレクトジャンプ
- バランスドームを5~6個ジグザグに置きます
- 端から順番に左右交互に片足でジャンプしていきます
- 最初は間隔を狭くして行い、徐々に間隔を広げるようにしましょう
3-5 アジリティクロス
アジリティクロスは、赤、黄、青、緑のチューブが十字に繋がっている、細かく速いジャンプやステップをするためのトレーニング器具です。地面に線を書いても代用できそうですが、アジリティクロスを使用した方が、チューブの太さ分の高さを意識しながらステップしなければいけないため、より効果的なトレーニングができると思います。トレーニング方法をご紹介します。
①両足ジャンプ
- 両足を揃え、身体は正面を向いたまま、①→②→①→③→①→④→①とジャンプします
- 次は②をスタート位置にして、②→③→②→④→②→①→②とジャンプします
- 同様にスタート地点を③、④に変えてジャンプします
- 一周したら今度は反対回りに、①→④→①→③→①→②→①とジャンプします
②前後スイッチステップ&左右クロスステップ
- 前後スイッチステップは左右の足を前後入れ替えてステップします
- 左右クロスステップは左右の足をクロスし、さらに前に来る足を交互に入れ替えてステップします
- パートナーに色を指示してもらい、指示された色のチューブをまたぐようにステップします
- 時間を決めて(30~40秒間)集中して速くステップするようにしましょう
まとめ
- SAQトレーニングとは、スポーツにおけるスピードを、スピード(Speed)、アジリティ(Agility)、クイックネス(Quickness)の3つの要素に分類して行うトレーニングのこと
- SAQトレーニングを行う目的は、「神経系の活性化」と「身体の正しい使い方」の2つ
- SAQトレーニングの器具には、ラダー、ミニハードル、リアクションボール(クレイジーボール)、バランスドーム、アジリティクロスなどがある
SAQトレーニングはあらゆるスポーツに必要な体の動かす土台作りに最適ですので、是非試してみてください。
≪参考≫ 子どもからトップアスリ-トまであらゆるスポ-ツ競技者の能力を伸ばすSAQトレーニング 最新版 ベースボール・マガジン社